第5回:M&Aを活用してのシンガポール進出

スティアリング コールマン キャピタル リミテッド 東京駐在員事務所長

大栗 敏広 

シンガポールのM&A市場傾向

 2011年におけるM&Aディール金額は、2010年と比較しますと約18%減少して、US$111億2,000万となりました。(ソース:Mergermarket)これは主に2010年に脚光をあびたようなヘルスケア分野の大型案件がなかった為と考えられます。

 分野別では、金融、不動産、資源エネルギーの3分野が2011年におけるM&Aディ―ル金額の約50%を占めています。例えば、マレーシアの銀行であるMaybankによるSGX上場証券会社Kim Eng Holdingsの買収が金融分野における代表的な案件でした。不動産分野も、シンガポール不動産市況の活況を受け、M&Aが活発な分野でした。大手不動産グループであるKuokGroupによるSGX上場Allgreen Properties Limitedの買収・非上場化が不動産分野における代表的な案件でした。尚、残念ながら、日本企業のこれら3分野におけるM&A活動はあまり活発ではありませんでした。

 シンガポールにおける外国企業によるM&A活動は、世界経済の成長エンジンのアジア地域へのシフトが鮮明になるにつれまして、活発化が顕著といえます。2011年のM&A実績によれば、シンガポールM&A市場における外国企業の国籍としては、マレーシア、中国(含む香港)、日本、の順番でランクされます。また、特徴のひとつとしましては、SGXに上場済みの中国企業に対する外国企業によるM&A件数が増加している事が挙げられます。これは透明性の高いSGX上場の中国企業の買収を通じて中国市場に参入しようという動きを表しています。更には、シンガポールの未上場の中堅・中小規模の企業(SME)の主要株主による売却何件が水面下で増加している動きもあります。この傾向の背景としましては、シンガポールにおきましても、同国が独立を果たした年である1965年から約45年がたち、経済発展の過程で事業を興した企業家達が高齢化してきており、また彼らが後継者難に直面するケースも多い為に、会社売却を探索するケースが多いという点が挙げられます。シンガポール企業及びその主要株主は、M&Aなどの金融取引知識をある程度有していたり、実務経験があったりする為、外国企業による彼らとのM&A交渉やデューデリジェンスの過程は比較的円滑に遂行されますので、外国企業にとっては同国への参入障壁はさほど高くないと思われます。ですので、日本の中堅企業もシンガポールの未上場SMEへのM&A実施を,シンガポール進出をおこなう際の方策として、より真剣に検討する価値があると思われます。

 

シンガポールにおけるM&Aの手法

 シンガポールにおけるM&Aの手法としましては、大別しまして、事業譲渡、株式取得、組織再編および組織再編に類似した制度があります。事業譲渡におきましては、シンガポールの会社法上の手続きに従いまして、事業を譲り受けることになります。株式の取得につきましては、既存株主からの発行済株式の取得と対象会社の発行する新株の取得があります。組織再編としましては、合併がありますし、また、組織再編に類似した制度としまして、日本の会社法にはないスキーム・オブ・アレンジメント(Scheme of Arrangement:以下“SOA”とする)があります。シンガポールでは、SOAの方が合併よりも実務上利用される頻度が高いことに注意しておく必要があるといえます。

 

シンガポールにおけるM&Aのバリュエーション

 シンガポールにおけるM&Aに際してのバリュエーションは、SGX上場会社に関しましてはEBIDTAマルチプルあるいはPERマルチプルがケースに応じて採用されるのが主流であり、未上場SMEに関しましては一般的にはPERマルチプルが採用されることが多いといえます。又、不動産分野の企業においてはNAVマルチプルが採用されることもあります。いずれにしましても、M&A市場の過去の実績をみながら、適切な企業価値評価をおこなう事が要求されてきます。その点で、シンガポール市場に精通したファイナンシャル・アドバイザーの活用を考慮することも推奨されるといえます。


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